「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読みました。
「2019年のビジネス大賞」を受賞している本です。
かなり衝撃的な内容で、「読んでよかった」というよりも「読んでおくべき本」だと思いました。10年後・20年後の未来がある程度想像できます。
本著を読んでみて、要点や、自分なりの感想をまとめてみたので、よろしければお付き合いください。
Contents
新井 紀子氏の紹介
著者は新井 紀子(アライ ノリコ)先生です。
数学者であり、国立情報学研究所社会共有知研究センター長でもあります。そして、「人口知能は東大に合格できるのか?」というプロジェクトでディレクターをされていた方です。
自身がAI(人工知能)の開発に関わっているからこそ、その主張には説得力があります。
経歴がこちらです。
- 一橋大学法学部卒業
- イリノイ大学数学科卒業
- 東京工業大学にて博士(理学)を取得
- 国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長
- 一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長
- 人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター
AI(人工知能)とは?
AIとは、「artificial inteligence」の略称です。
直訳すると「人口知能」ですが、分かりやすく言うと「人間の知能をコンピューター上で再現する技術」のことです。人間が脳内で行なっている推測や判断をコンピューター上のプログラムで行うということですね。
シンギュラリティとは?
「シンギュラリティ」というのは「技術的特異点」と言われています。これは、AIをはじめとする技術が、「人間を超える存在になる時点」を指す言葉。
米国の数学者ヴァーナー・ヴィンジ氏が多くの著作で取り上げ、人工知能研究の権威レイ・カーツワイル博士は、2045年に「シンギュラリティが到来する」と提唱されています。
シンギュラリティは来るのか?
前半部分は世間のAIに関する認識とのすり合わせになります。新井先生が本著で強く主張されているのがこちら。
- 「AIが神になる」→「なりません」
- 「AIが人類を滅ぼす」→「滅ぼしません」
- 「シンギュラリティが到来する」→「来ません」
つまり「シンギュラリティなんて来ないわよ!」ということ。
世間で騒がれているAIについての認識を、一刀両断されています。
率直に言って「みなさん、AIに夢見過ぎじゃないですか?」というメッセージがバリバリに伝わってきました。とにかく論理的で説得力があります。
AIが人間を超えられない理由
AIが人間を超えられない理由がこちらです。
- コンピューターは計算機である。
- AIはコンピューター上のプログラムである。
- 人間の知的活動を数式に変換することはできない
コンピューターは四則演算をする計算機に過ぎず、AIがコンピューター上で実現されるプログラムである限りは「シンギュラリティ(技術的特異点)」はこないということです。
そして、現在の技術(脳の活動すら解明されていない)では、人間の知的活動のすべてを数式に変換することはまだ到底できない。
「ディープラーニングは?」「ビッグデータは?」という意見もあると思いますが、コンピュータが計算機であることと、AIがプログラムに過ぎないという部分は事実です。
・ディープラーニング:大量のデータをもとに自動的に特徴を発見する技術
・ビッグデータ:記録・保管・解析が難しいほどの巨大なデータ群
AIは東大に合格できるか?
新井先生は「人口知能は東大に合格できるのか?」という「東ロボくん」プロジェクトでディレクターもされていました。つまり、「AIになにができるのか?」「AIになにができないのか?」という限界値を理解しているということ。
結論からいうと、「AIが東大に合格することは絶対にできない」ということでした。これは研究当初から参加メンバーが全員感じていたことだそうです。
偏差値60程度に到達することはあっても、「偏差値65」を超えることは絶対に不可能。
コンピューターが計算機である限り、国語や英語の本質的な理解はできない。つまりAIの「読解力」には限界があるということです。
実際に、150億もの英文データを用意しても、英会話の問題をまともに解くことができなかったそうです。
AIが苦手なこと
コンピュータが計算機であること。AIはコンピュータ上で実現するプログラムであること。東ロボくんプロジェクトの結果(国語・英語がダメ)を考えると、以下の2点が明らかになってきます。
- AIが得意 → 数学的なこと(論理・確率・統計)
- AIが苦手 → 文章の意味を理解すること(読解力)
つまり、「AIには文章が理解できない」ということです。
日本人の読解力について
じゃあ、AIが苦手とする「読解力」を人間はもっているのか?
新井先生は、全国2万5000人を対象に読解力調査(RST)を行ったところ、多くの中校生が、「教科書レベルの文書すら理解できない」ということがわかったそうです。
これは、「AIが苦手なことをできる人間が少ない」ということを意味します。
まとめ
AIが労働市場に導入されると、おそらく新たな仕事が生まれます。
そこで必要になるのが新しい仕事を覚えるための「読解力」であり、新しい仕事の「意味・規定・仕組み」などを正しく理解しなければなりません。
しかしながら、日本の学生には読解力が不足していることを考えると、日本人は、そこに大きな危機を感じなければならない。
読解力を伸ばす方法は科学的に立証されていないが、何歳になっても伸ばすことができることは経験的にわかっている。
AIに代替されない人間になるには「読解力」を磨くことこそが重要である。
新井先生が本著で一番伝えたいことはまさにここですよね。本著を出版された動機も以下のようなイメージだと思います。
AIの研究をしていたらAIの限界(読解力がないこと)がわかってしまった。→ 日本の学生の「読解力」を調べてみた → 日本の学生に「読解力」がないことがわかってしまった。→ 危機を感じたので筆をとった。
すごく参考になる本だったので、ぜひ読んでみてください。おすすめです。